霊感御曹司と結婚する方法
第四章

残光

 深夜に村岡さんから電話があった。何かあったのかと不安になりながらもすぐ電話をとった。

「寝ていたよな。ちょっと大変なことになって、まだしばらく帰れそうになくなった。俺のことじゃない。それは心配するな。先に吉田に事情を話してある。夜があけたら吉田がマンションに訪ねてくるから、彼の話を聞いてほしい」

 村岡さんはいつになく落ち着いてはっきりとした口調で喋っていたことが気になった。私は、わかりましたとだけ言って電話を切った。

 時計を見ると午前三時だった。

 村岡さんから聞いたとおり、早朝に吉田さんが訪ねて来た。でも彼が来る前に、何があったかはネットのニュースで見つけて、知ってしまった。

 専務の拳銃自殺。拳銃を使った自殺だったから、一企業の経営者の自殺程度のことでも、わりと大きく取り上げられていた。

 訪ねてきた吉田さんをダイニングに通してコーヒーを用意した。それくらいの心の余裕はあった。というか、起きた事が、もはや、私が取り乱してはいけない距離の出来事だと思ったからだ。

「僕も信じられない。専務が自殺だなんて。……考えられない」

 吉田さんのほうが青ざめて、こちらが心配になるくらいだった。彼は、村岡さんとの付き合いの長さと同じだけ専務のことをよく知っていたし、個人的にも親しい間柄らしかったから無理もない。
 
「専務が亡くなったことを君に伝えることは、僕から村岡に申し出たんだ。それだというのに、ごめん……」

 私が差し出したコーヒーカップを持つ彼の手がずっと震えていた。

「このことを、君が、村岡から直接聞いたら、村岡も君もどちらも傷つくと思ったんだ。だけど、本当にごめん……。僕がダメみたいだ……」

 吉田さんは、私の目の前で泣いた。

「私は、大丈夫ですから」

 彼は鼻をすすりながら何度も頷いていた。

 私は吉田さんをリビングのソファの方に座らせて、彼が落ち着くのを待った。そして、しばらくしてから詳しいことを聞いた。

「自宅で自殺を図った専務と、留置場にいる一歌さんが、同時に亡くなったらしいんだ。村岡が言うところの、そのことが何を意味するかはわからない」

 一歌さんも亡くなったと知ったのは、やはり結構なショックだった。その亡くなり方も。

「偶然ですよね? まさか、一歌さんも自殺なんですか……? でも、どうやって……?」

「詳しい死因はまだだ。亡くなったのが同時ということも、これから詳しく調べてわかることだと思う」

 まず、一歌さんが留置場で死んでいるのが見つかった。

 そして、警察が専務に連絡を入れたところ、繋がらなくて、次に連絡をうけた村岡さんのお母さんが、不審に思って、そのまま警察に自宅を確認させたら、専務が自宅で倒れていたということだった。

 倒れていた部屋には、中から特殊な鍵がかかっていて、確認するまですごく時間がかかったらしい。それは、他殺ではないことを知らせるための村岡さんのお兄さんの気遣いで、遺書もあったらしいから自殺だということだった。
< 49 / 80 >

この作品をシェア

pagetop