霊感御曹司と結婚する方法
「ここから先は、村岡には言われていないことだ。これは僕の予測だけど、君に、無関係のことではないから聞いてほしい」

 私は黙って頷いた。

「専務が亡くなったことで、村岡は、間違いなくエムテイに引き戻される。将来の幹部候補としてだ。そうなったら、グリーンは続けられない。

 もともと、グリーンはエムテイの持株会社だし、起業できたのも、専務の力によるところが大きかった。

 もちろん、グリーンでは、すでに大きなお金も動いているし、自分たちだけじゃないところも巻き込んでいる。だから、すぐに会社を畳むことにはならない。だけど、これからの村岡と僕には、大変だけどあまり楽しくない仕事が待っているだろう。

 僕は、今やりかけになっている事業を、エムテイに巻き取ってもらえるための整理をしていくつもりだ。神崎さんも、これからは、そのつもりでいておいてほしい」

「わかりました」

 吉田さんは、少し間をおいて付け加えた。

「……あと、今後の君の身の振りかたにも関わることだし、当然のことだけど、自分のことを優先して考えてくれていいから」

「はい」

「もちろん、こういうことを僕から聞いたと村岡に言ってくれても構わない」

「いいえ、正直に、隠さずに言ってくださってありがたいです。でも、私も最後までお手伝いします」

「僕の判断だけで、君にそういうことを言わせてしまって申し訳ない……」

 吉田さんは、腰掛けたまま、またうなだれた。

「でも、吉田さんも、村岡さんも、こんな時でも冷静ですよね……」

「いや、……冷静じゃないよ。少なくとも僕の方は」

 彼は少し語気を強めて、吐き捨てるように言った。私は、彼を怒らせたかもしれないと思った。

 短い付き合いだが、彼は他人に対して、感情をあらわにできるタイプの人ではないと思う。その彼が、私にこんな態度をとるのは、よほど私の言ったことが、彼の気にさわったのだと思った。

「それは、そうですね。……言葉が過ぎました。……ごめんなさい」

 私はコーヒーのおかわりをとってくるついでに、この場を少し離れていようと思った。そして、立ち上がったが、その時に背後から吉田さんに腕を掴まれた。

 突然のことで何が起きたかわからなかった。
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