霊感御曹司と結婚する方法
 私は、立ち上がった彼に、いきなり抱きすくめられて、無言でキスをされた。私が思わず顔を背けて、彼を振り払うと、今度は彼は、私を部屋の壁に押し付けて、また力ずくでキスを仕掛けてきた。

 彼もまた背が高くて、村岡さんよりは線が細いが、違う男らしさだ。私の力で抗えるわけもない。

 私は抵抗も出来ず、口だけでなく、耳元や首筋へのキスを受け続けて、ズルズルと床にへたり込むと、そのままリビングの床に仰向けで組み伏せられてしまった。少しもがいてみたけど、なんの効果もなく、彼は既に、私のカットソーの裾から手を入れて下着ごと捲っていた。彼に素肌を直に触られ始めると、もうダメだと観念した。

 救いは、私が吉田さんとは、歳も近くて、いい大人の年齢同士で、彼が、自分の男性の好みからさほど外れておらず、嫌いではないということくらいか。それでも、というか、それだけ、突然降ってわいた、意味不明な背徳感は否めない。

 このまま無理にされて、最後までいっても、不器用で真面目で、おそらく女を知らないこの人を、私が、傷つけてしまう。しかも深く傷つけて、下手をしたら、再起不能状態まで陥れてしまうかもしれない。

「……君の気持ちも、村岡の気持ちも知っている。僕が入り込む隙なんてないのは、ちゃんとわかっている……」

 吉田さんは、消え入りそうな声で言った。

 それを聞いて、私は本当に困ってしまった。

 そして、この時、私は向井さんに初めて抱かれた時のことを思い出してしまった。目の前の吉田さんに申し訳なく思いながら。

 あの時の向井さんも不安に押しつぶされそうだった。今の吉田さんみたいに。

 別にあの時、私は間違ったことはしていなかった。それなのに、あの日のことは、自分のこころの奥底に淀んだものがあるように、ずっと後悔していた。

 そういえば、あの時の向井さんは、私が処女だったことをものすごく驚いていた。

(だからか。だから、彼もずっと責任を感じていたんだ。たぶん。彼も真面目な人だったし……)

 今さらながら、向井さんに急に申し訳なく思えてきた。向井さんが無理やり私に大金を託した理由がそこにもあるような気がして、そう考えると、なんか力が抜けそうだった。

(そんなことを、ずっと気にしていたんですか? もしかして……)

 男をバカにするなって、返事が彼から来るかもしれない。笑って。彼とのお付き合いは私も苦しかったけれど、彼もまた苦しかったに違いない。

 それが私の思い違いだとしても、彼には、もう、謝ったり、そういう確認をするための、会話のやり取りも出来ない事実が、悲しみとともに胸に迫ってきた。

 目の前の吉田さんとだって、なにかの拍子、みたいなのではなくて、普通に出会ってみたかった。日々過ごす中で、彼の好意に気がついて、お互いに好きだと表明しあって、お付き合いを始めて……みたいな流れで。そうしたら、今からされるような、力ずくで無理矢理に、こんな悲しいことをされなくて済んだ。

(何で、こんなことになるんだろう……)

 自分の運のなさを呪った。

 でも、そういういじけた被害者意識が根本的に自分のダメなところで、こういっためぐり合わせを引き寄せている原因なのだとも思った。
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