霊感御曹司と結婚する方法
 その時、私の上に覆いかぶさる吉田さんと視線が合った。

 私は、村岡さんからお兄さんに続けて、この人まで奪うことは許さないという、何者に向けているのかわからないが、妙な反発心が湧いて、今は目の前の彼を受け入れようと覚悟を決めた。

 でも、吉田さんは、はっとした表情をしたあと、私を押さえつけていた腕から手を離して、ゆっくりと起き上がった。そのまま立ち上がり、私に背を向けて、しばらく呆然としていた。

 私は起き上がって、その何も言わない彼の背中をしばらく見つめたあと、乱れた服と髪をなおした。

「君に、何てことを。……どうかしているよ、僕……」

 彼は、私に背を向けながら言った。その声はかすかに震えている。

「……座ってください。コーヒーのおかわりを持ってきますから」

「謝って済むことじゃない……」

「大丈夫です。今のことは、何も言わないでください」

「ダメだよ、神崎さん。僕は、僕のことは……」

 彼は振り向いて、泣きそうな声で何か言いかけたけど、私はそれを遮って言った。

 私のことを好きだと言ってくれるのか、はたまた自分を罰してくれと言うのかわからないが、今の混乱した頭で言わせてはいけない。

「それより、この先、私にも、何ができるか、教えてください」

「そうは言っても……」

「村岡さんのお家で、お兄さんの死後にやることや、整理したりするのって、相当時間がかかると思うんです。村岡さんは弟だけど、無関係じゃないですよね?」

「……それはそうだよ。ご両親を支えることも当然しないといけないはずだ」

「グリーンで、遠城さんが、今手掛けているヘリコプターの運行管理システムだって、エンドで使ってもらえるようになるまで、まだまだブラッシュアップが必要だって、遠城さんは仰っていました。村岡さんが帰ってくるまで、やれることは私にもあると思うんです」

「……わかった。……そうだね」

 彼も私の気持ちを汲んでくれたのか、多少、目が覚めたようなしっかりした顔つきになった。

 私の気持ちというのは、吉田さんの気持ちに応えられないとか、そういうのではない。

 この二人から早々に離れることを、たった今、決意を固めた私の意地だ。その前に、村岡さんには命を助けてもらったお礼もしたい。吉田さんも事件のことで相談にのってくれた。

 彼らに心からの感謝を示すために、自分のできる限りの事をして、彼らの記憶に残りにくいように、仕事をそつなくこなして、その後で彼らのもとを去ろうと決めた。
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