【コミカライズ原作】大正浪漫 斜陽のくちづけ
「あんたにゃ恨みはないが、ちょっとこっちも入り用でな」
紙煙草に火をつけると、床に倒れた女を蹴飛ばしてから鍵をかけて倉庫に閉じ込める。舎弟は入口のところに見張りとして立たせた。
か弱い女なら自分一人で十分だ。怯えて震える姿を見ると笑えてきた。殴られたことなんてないに違いない。
労働を知らない白くてよく手入れされた手。家が落ちぶれても働きもせず、結婚すれば男の金でまた裕福な暮らしが約束されている。
こういう甘ったれた女には、ちょっと世の中の厳しさを教えてやりたくなる。
「なぁ、あんたさ。男と死のうとしたんだろ。こんくらいでびびんなよ。俺は命までは取らねぇからさ。ちょいと金を用立てて貰えれば無事に返すさ。な? それまで俺と楽しく待とうぜ」
無言で下を向いたまま、女は反応しない。
「返事は」
火のついた煙草を頬に近づける。しみ一つない透き通るような肌だ。傷をつけたらさぞかし気分がいいだろう。
「わかりました……」
蚊の鳴くような小さな声。見目のいい女が怯えている姿はいいもんだ。いたぶり甲斐がある。
「あんたの家のこと、調べさせてもらったよ。相楽みたいなろくでなしに弱味握られて、娘を差し出すとはとんでもねぇ父親だな。相楽もなぁ、根っこは俺と同じなんだよ。金のためならなんでもやるし、権力欲しさに好きでもねぇ女と結婚もできる」
辛辣な言葉を浴びせても、女の表情は固まったままだった。
説教まじりに色々教えてやっていると、舎弟の一人が入ってくる。
「九条の家に連絡がつきました。金はすぐに用意するとのことです」
「よくやった」
もし払わなければ、過去の醜聞もばらすと脅しつけておいた。世間体を気にしなければならない立場の人間は、強請るには最適だ。
相楽は横須賀に行ったはずだ。奴よりも九条伯爵を脅す方がたやすい。
「見張り、頼むぞ」
「わかりました」
再び二人きりになる。
「ああ、そうだ。死んだ男とやら、表向きは従兄だって話だが、そうじゃないって知ってたか?」
女が瞠目する。やはり知らなかったか。思ったとおり無知で馬鹿な女だ。
「真一郎だったか。そいつの父親はお前の親父で、あんたの異父兄ってことになるな。醜聞もみ消したのは、あんたのためじゃなくて自分のためだよ。詳しくはあとでゆっくり教えてやるからさ。全部世間に知られりゃ大騒ぎになる」
「嘘」
呆気に取られた顔で弱々しく呟く。お優しいお父様の裏の顔、信じるはずがない。
きっと娘にも下衆な部分は見せないのだろう。
親父の悪行については、楽しんだあとにたっぷり教えてやるつもりだ。
いかにも立派な顔をして、暮らしている偽善者を思うと苛々した。知らずに何不自由なく暮らしてきたこの女にも。
「嘘じゃない。まぁ与太話と思って聞いてくれたらいいさ。心中するくらいだから、その男とも寝たんだろ? 兄貴とやっちまったんだよ。あんたはさ。清楚な顔して畜生並みだな。ははっ」
屈辱的な言葉を浴びせると眦に涙が滲む。なかなかそそる顔だ。見てると苛立ちが欲情に変わってきた。
時計を見ると、まだ余裕がありそうだ。金の工面とここまでくる時間を考え、どんなに早くても一時間はかかるだろう。
「相楽は伯爵家の威光目当てだ。お前みたいな偽善者にはぴったりだな」
「……」
この女を弄ぶにはちょうどいい。
「お高く止まる前に道徳のお勉強でもした方がいいんじゃないか。さぁ、お迎えが来るまで楽しませてくれよ」
凛子の顎に手をやり、唇をなぞる。
「やめてください」
顔を背け逃げようとする女の横っ面を思い切りひっぱたく。唇から血が出た。ガキと女を躾けるには暴力が一番だ。
「拒否できるような立場じゃねぇだろうが」
恐怖で引き攣った顔がやはり好みだった。
滅多に抱けない上玉だ。新妻を犯されたら相楽はどんな顔をするかと思うと、興奮でぞくぞくしてくる。それこそ殺したいほど憎むだろう。
──望むところだ。一生忘れられねぇ思い出にしてやるよ。
すぐに床に押し倒す。かわいらしい顔を撫でると、手に噛みつかれる。驚いた隙に、女が市村の下から逃げ出し、倉庫の扉への方と逃げた。
必死で扉を開けようとするが、外から頑丈な錠をかけさせてある。出られっこない。
「ははっ。案外じゃじゃ馬だねぇ、あんた。まだ時間はあるから追いかけっこでもしようか。狩るのが大変な獲物ほど食ったら旨く感じるもんだ」
ゆっくり歩いて近づくとまた逃げる。兎のようにすばしっこい。本当に狩りでもしている気分になる。
「助けて!」
壁を叩いて絶叫するが、この辺りに人気はない。こういうことは、相手が嫌がれば嫌がるほど楽しいもんだ。女を口説いたり、買ったりするのとは全く別の興奮があった。
薄暗い倉庫で山積みされた荷物の中を女が逃げ回る。
じりじりと少しずつ、追いつめる。逃がしてなるものか。
紙煙草に火をつけると、床に倒れた女を蹴飛ばしてから鍵をかけて倉庫に閉じ込める。舎弟は入口のところに見張りとして立たせた。
か弱い女なら自分一人で十分だ。怯えて震える姿を見ると笑えてきた。殴られたことなんてないに違いない。
労働を知らない白くてよく手入れされた手。家が落ちぶれても働きもせず、結婚すれば男の金でまた裕福な暮らしが約束されている。
こういう甘ったれた女には、ちょっと世の中の厳しさを教えてやりたくなる。
「なぁ、あんたさ。男と死のうとしたんだろ。こんくらいでびびんなよ。俺は命までは取らねぇからさ。ちょいと金を用立てて貰えれば無事に返すさ。な? それまで俺と楽しく待とうぜ」
無言で下を向いたまま、女は反応しない。
「返事は」
火のついた煙草を頬に近づける。しみ一つない透き通るような肌だ。傷をつけたらさぞかし気分がいいだろう。
「わかりました……」
蚊の鳴くような小さな声。見目のいい女が怯えている姿はいいもんだ。いたぶり甲斐がある。
「あんたの家のこと、調べさせてもらったよ。相楽みたいなろくでなしに弱味握られて、娘を差し出すとはとんでもねぇ父親だな。相楽もなぁ、根っこは俺と同じなんだよ。金のためならなんでもやるし、権力欲しさに好きでもねぇ女と結婚もできる」
辛辣な言葉を浴びせても、女の表情は固まったままだった。
説教まじりに色々教えてやっていると、舎弟の一人が入ってくる。
「九条の家に連絡がつきました。金はすぐに用意するとのことです」
「よくやった」
もし払わなければ、過去の醜聞もばらすと脅しつけておいた。世間体を気にしなければならない立場の人間は、強請るには最適だ。
相楽は横須賀に行ったはずだ。奴よりも九条伯爵を脅す方がたやすい。
「見張り、頼むぞ」
「わかりました」
再び二人きりになる。
「ああ、そうだ。死んだ男とやら、表向きは従兄だって話だが、そうじゃないって知ってたか?」
女が瞠目する。やはり知らなかったか。思ったとおり無知で馬鹿な女だ。
「真一郎だったか。そいつの父親はお前の親父で、あんたの異父兄ってことになるな。醜聞もみ消したのは、あんたのためじゃなくて自分のためだよ。詳しくはあとでゆっくり教えてやるからさ。全部世間に知られりゃ大騒ぎになる」
「嘘」
呆気に取られた顔で弱々しく呟く。お優しいお父様の裏の顔、信じるはずがない。
きっと娘にも下衆な部分は見せないのだろう。
親父の悪行については、楽しんだあとにたっぷり教えてやるつもりだ。
いかにも立派な顔をして、暮らしている偽善者を思うと苛々した。知らずに何不自由なく暮らしてきたこの女にも。
「嘘じゃない。まぁ与太話と思って聞いてくれたらいいさ。心中するくらいだから、その男とも寝たんだろ? 兄貴とやっちまったんだよ。あんたはさ。清楚な顔して畜生並みだな。ははっ」
屈辱的な言葉を浴びせると眦に涙が滲む。なかなかそそる顔だ。見てると苛立ちが欲情に変わってきた。
時計を見ると、まだ余裕がありそうだ。金の工面とここまでくる時間を考え、どんなに早くても一時間はかかるだろう。
「相楽は伯爵家の威光目当てだ。お前みたいな偽善者にはぴったりだな」
「……」
この女を弄ぶにはちょうどいい。
「お高く止まる前に道徳のお勉強でもした方がいいんじゃないか。さぁ、お迎えが来るまで楽しませてくれよ」
凛子の顎に手をやり、唇をなぞる。
「やめてください」
顔を背け逃げようとする女の横っ面を思い切りひっぱたく。唇から血が出た。ガキと女を躾けるには暴力が一番だ。
「拒否できるような立場じゃねぇだろうが」
恐怖で引き攣った顔がやはり好みだった。
滅多に抱けない上玉だ。新妻を犯されたら相楽はどんな顔をするかと思うと、興奮でぞくぞくしてくる。それこそ殺したいほど憎むだろう。
──望むところだ。一生忘れられねぇ思い出にしてやるよ。
すぐに床に押し倒す。かわいらしい顔を撫でると、手に噛みつかれる。驚いた隙に、女が市村の下から逃げ出し、倉庫の扉への方と逃げた。
必死で扉を開けようとするが、外から頑丈な錠をかけさせてある。出られっこない。
「ははっ。案外じゃじゃ馬だねぇ、あんた。まだ時間はあるから追いかけっこでもしようか。狩るのが大変な獲物ほど食ったら旨く感じるもんだ」
ゆっくり歩いて近づくとまた逃げる。兎のようにすばしっこい。本当に狩りでもしている気分になる。
「助けて!」
壁を叩いて絶叫するが、この辺りに人気はない。こういうことは、相手が嫌がれば嫌がるほど楽しいもんだ。女を口説いたり、買ったりするのとは全く別の興奮があった。
薄暗い倉庫で山積みされた荷物の中を女が逃げ回る。
じりじりと少しずつ、追いつめる。逃がしてなるものか。