純・情・愛・人
宗ちゃんに逢ったらいつ戻るかを訊いてみよう。わたしに落ち度があって、謝って解決するなら勇気を出そう。(コウ)くんが話すことさえ拒んだら彼の前からは消える。一生。

「このご時世だからなー。宗は立派な跡継ぎだけどよ、兄弟で力合わせてかねーと永征会も大変だわな」

土鍋から立ち昇る湯気の向こうで、缶ビールを呷ったお父さんが独り言のように。

「カオルはカオルで、まあ後悔しねーのが一番だ」

「・・・うん。そうだね」

少しぎこちなく笑い返した。

宗ちゃんの事を指して言ったのも分かっていた。お父さんがうるさく口を挟まないのは、宗ちゃんがいずれわたしとの関係を清算すると信じて疑わないから。

永征会の利益になる相手と結婚して、有馬の跡取りを繋ぐのは宗ちゃんの大事な役割。

『・・・それでも俺についてくるか?』

クルーズ船で迎えた初めての朝。わたしを胸に抱いて微笑んだ、世界一好きなひと。

『だって宗ちゃんしかいないから』

あのとき誓ってくれた。
死ぬまで離さないって。
愛する女はひとりだけだって。

娘の幸せを願うお父さんを裏切ることになっても。
有馬宗吾の傍らで生きられるなら。

どんな後悔と償いが待ち受けていても、・・・こわくない。



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