純・情・愛・人
5-1
大地が生まれてからも遠慮なくマンションに立ち寄る広くんに、聞かされていた。

『兄貴はテメェのガキに見向きもしねぇよ』

琴音さんとの間に生まれたのは女の子で跡継ぎにはなれない。男の子を望んでいたとしても、宗ちゃんがそこまで無関心なのを知ったとき、胸の奥が鈍く締め付けられた。

わたしには男でも女でもかまわないと優しく目を細めた宗ちゃん。子供が将来を好きに選べるよう不自由はさせないと、父親の顔で淡く笑った。

有馬にいずれ男子が誕生すれば、今は大地が独り占めできる宗ちゃんの愛情も時間も、比重は変わってくだろう。仕方のないことだ。減ってしまう分、わたしがありったけ注いであげよう。

・・・そう思っていた。大地には極道とは関わりない普通の人生を歩ませる以外、考えていなかった。

『跡継ぎにする』

言葉の意味を理解した瞬間、化け物を見たかのような形相だったかもしれない。

「どう、・・・して」

今まで絶対的に、あるいは妄信的に信じて疑わなかった。宗ちゃんは正しい。宗ちゃんは裏切らない。

ベッドの中で横になったまま、目の前にある端正な顔は、わたしを騙そうと宗ちゃんの皮をかぶった偽物に見えた。

そんなことを言うはずがない。衝撃と混乱で頭の中が破裂しそうだった。
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