純・情・愛・人
5-2
次こそ大地の話をしようと決意を固めた矢先。仕事が立て込んでいる、と、宗ちゃんはしばらくマンションには戻ってこられなかった。

時々かかってくるスマートフォン越しの声は優しかったけど、少し疲れて聞こえた。

『早く片を付けて、お前達の顔を見たいがな』

宗ちゃんにとって安らぐ拠りどころはわたしと大地だけ。言葉の端々に伝わってきた。切なさが溢れた。宗ちゃんを解放してあげたい、どこかで三人きり穏やかに暮らせたらどんなに・・・!

労いを込めて笑い返す胸の奥が締め付けられた。極道さえ捨ててくれたなら。そんな身勝手な願いが巣食う。一番叶わない未来だ。

あれきり広くんも跡継ぎのことは口に出さない。機をうかがっている沈黙にも思えた。・・・嵐の前の静けさにも似ていた。






「今度の日曜、有馬(うち)清音(きよね)の桃の初節句やるぞ」

清音ちゃんは大地の異母妹、琴音さんが産んだ女の子のことだ。自分の家族について黙り通す宗ちゃんにはお構いなく、広くんはいつも勝手に話し出す。

宗ちゃんが結婚するまでは一喜おじさんが毎年、わたしの為にお祝いしてくれたのが懐かしい。洗濯物を畳みながら、ああそうなのかと軽く聞き流したのを、大地の面倒を見ている広くんがあからさまな溜息を吐いた。

「親父さんとお前も呼ばれるに決まってんだろ」
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