純・情・愛・人
抱き締められる距離じゃなければ気付かない愛用の香り。ここにしかないと思っていたわたしの居場所。戻れると自惚れてもいなかった。諦めがつきかけていた。

心が軋む。“うれしい”より“愛しい”より不安に揺さぶられる。プライドの高い宗ちゃんが黙っていられなくなったというなら、それは大地のこと以外にないはずだから。

「あの時はすまない。・・・不甲斐ないが、お前が広己にそそのかされたのかと血が昇った」

穏やかに響き、あやすように指が髪を撫でる。

「もっと話を聞いてやるべきだったな。お前の気持ちも、親父さんの言い分も十分わかっている。跡目のことは今は考えなくていい」

取り繕った上辺の誤魔化しには聴こえなかった。

「俺に惚れたまま広己と飯事(ママゴト)を続けても、意味がないだろう。・・・戻ってこい薫。極道をつらぬいて死ぬまでお前と生きると誓った男を信じていろ」

静かな告白に涙が溢れる。切なさに圧し潰される。細胞という細胞が千切れそう・・・!

宗ちゃんの愛を疑ったことは一度だってない。ないの。心が叫んだ。

叫んでいるのに。

声にならない。

出てこない。

『     』

涙しか。

出てこないの、宗ちゃん・・・。
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