純・情・愛・人
今も服の下に隠したネックレス。愛してもらうために大地を引き換えにはできない。答えは出ているのに約束の指輪を外せない。

止まった手が胸元を探り、輪っかの感触を掌の中に閉じ込めた。ぶら下がっているのは後ろめたさだ。宗ちゃんへの。・・・広くんへの。

大きく溜息を零し、広げた男物のシャツを最後まで仕上げてしまおうとアイロンのハンドルを握ろうとして。玄関のドアロックが解除された音が聞こえた。

正直、早く帰ってくれたのはすごく助かる。そろそろ昼寝から起きるはずの大地と、夕飯の支度を両立させるのは至難の業だから、彼の手助けはそれこそ神の手。

アイロン台の前から腰を上げ、足音を出迎えようと声をかけた。

「お帰りなさい広くん、お疲れさ」

「・・・広己じゃなくて残念だったか」

リビングから風を通すために廊下への扉は開け放っていた。奥から現れた長身が三つ揃い姿の宗ちゃんだったのを、足が竦んで茫然と立ち尽くす。

彼はいつも戻る時間を先に連絡してくれた。電話はなかった。だけど疑いもしなかった。

「ど、・・・し」

どうして来たの。

「ここは俺とお前の家だ。来るのに理由は要らないだろう」

伸びてきた腕に囚われる。
宗ちゃんの胸に埋もれる。
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