純・情・愛・人
行き先を悩みに悩んだ末、マイナスイオンに癒やされようと思い付いたのも、宗ちゃんの気分転換になればいいと思ったから。仕事柄いつも気を張っているだろうし、四角い景色ばかり見ていそうだし。

滝壺を上から眺められる甘味処があるのを知り、花より団子を装って『行ってみたい』と強請ってみた。知る人は知る穴場スポットと紹介されていたから、それなりの人出は承知のうえだ。

近くには吊り橋が名所の渓谷があるらしく、もし足を伸ばせたらと、動きやすいワイドパンツにモックシューズ、フード付きのロングカーディガンを羽織り、バッグもショルダーを選んだ。

首許には、一昨年の誕生日にプレゼントしてくれたオープンハートのペンダントをさり気なく。髪はサイドを軽く編み込んで、乱れにくいように。

始め順調だった高速道路は渋滞予測どおり、流れては詰まってを繰り返した。途中サービスエリアで、ソフトクリームを食べたり日帰り旅行気分を満喫しつつ、目的地に着いたのはお昼過ぎ。片道三時間半、無表情になって口数が減っていく隣りにひたすら話しかけたわたしも、けっこう頑張ったと思う。

『帰りは運転代わるね』

気遣ったつもりだったのに、あの宗ちゃんが無言で視線を泳がせた。・・・・・・不安なら不安ってはっきり断って?
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