純・情・愛・人
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(その)ちゃん、弁当まだ頼めるかい?』

「大丈夫ですよ新巻さん」

内線電話を取ると、倉庫の作業員からのお昼の注文。

わたしは住宅用サッシメーカーの物流倉庫で総務課の仕事をしている。四年目だ。大卒という学歴が役に立ったのかは分からないけど、ブラック企業でもない普通の会社に就職できただけでも幸運だった。

就活が上手くいかなかったら、いくらでも紹介先があると宗ちゃんが励ましてくれたから、入社試験も面接も気持ちに余裕が持てた。数打って当たった会社でも、やりがいとは遠い雑務でも、採用されたのは間違いなく宗ちゃんのおかげ。

すぐ部下のせいにする部長やら、若い社員にお局風を吹かせる先輩やら、大なり小なりストレスを持てあます日々。それでも残業がなくて完全週休二日制は家事と両立できるし、車通勤でスーパーもドラッグストアも寄りたい放題。上を望めばきりがない。

最終的に寿退社が理想と思う、女子なら誰でも。上辺だけでも祝福されて、花束をもらったりして。

宗ちゃんは極道の跡取りだから。わたしはそこに行けない。隣りでドレスは着られない。花束はもらえない。・・・最初から。
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