純・情・愛・人
4-2
生憎、近くで設備の整った産婦人科が見つからなかった。口コミを参考に家から車で三十分圏内を検索して、市外の私立病院を選んだ。

お父さんは、わたしが産まれた時以来だと照れつつも懐かしそうに。渋滞や順番待ちは嫌いなのに、内診が終わるまでの一時間半近く、大人しく付き合ってくれた。

検査の結果、妊娠6周目に入る頃だと担当医師から告げられた。具合が悪かったのも妊娠の兆候だったらしい。生理が一週間以上遅れていたのは、体調不良のせいだとばかり。心から望んでいたことだけど、まさかこんなに早く。

逆算するとゴールデンウィークで一緒にいた時の、・・・だ。彼女と沖縄に行く前の。きっと宗ちゃんが強く願ってくれたから授かった。この子は宗ちゃんの愛そのもの。

まだへこんでいるお腹に手を当て、『産みます』と力強く答えた刹那。言い知れない愛おしさが込み上げ、泣きそうになった。

待合のエントランスで半分居眠りしていたお父さんも、戻ったわたしの顔を見て、目を赤くしながら笑った。

『操も楽しみにしてら』

次の予約も終えて表に出れば、陽射しの消えた曇天。

「お母さんに報告しようかな」

「どっかで昼メシ食って墓参り行くかー」

駐車場から滑り出した車は、交差点を来た方向へ折れる。

切れ間のない鼠色の空。でも心には一条の光が射している。
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