純・情・愛・人
4-4
「俺は明日の夜までに戻る。誰が来ても開けるなよ?宅配も無視しろ。絶対に一人でふらふら出かけんじゃねぇぞ?」

「・・・うん」

凄まれて念押しされるのも、これで何度目?

「俺の電話には死んでも出ろ。出なかったら覚えとけ」

一時間置きにかけてきそうな勢い。内心で溜息を吐き、コクリと首を縦に振った。

玄関先で脅されている理由は、明日が宗ちゃんの結婚式で、広くんもいったん有馬の家に戻ることになったからだ。

つわりが落ち着きはじめ、出勤できる日も増えてきた。もうそんなに心配されるほどじゃないと思う。

「大人しくしてるし大丈夫。行ってらっしゃい」

「大丈夫じゃねぇから言ってんだよ」

こんな感じに朝から不機嫌で。今日は十五時で退社させてもらい、迎えにきた広くんはハンドルを操りながら、ほとんど口をきかなかった。

「何かあったら広くんに相談するね。行ってらっしゃい」

片眉が反応して、やっと鬼の(ツノ)が引っ込んだ気配。

「すぐ言え」

「うん。行ってらっしゃい」

最後は上からアーモンドアイを細め、無言でわたしを気圧して玄関を出て行く。

この頃は会話に遠慮がなくなり、天気の話くらいはするようになった。それでも、お父さんと交わす笑い顔がこっちを向くことはない。まだ。
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