冤罪で処刑され、ループする令嬢 ~生き方をかえてもダメ、婚約者をかえてもダメ。さすがにもう死にたくはないんですけど!?
 レティシアは首を傾げつつも、言われるままに石を握りしめた。

「手のひらに気持ちを集中して」
 リーンハルトの言葉に耳を傾け言われたとおりにする。すると手のひらの石が温かくなってくる。

「前に噴水で言ったこと覚えている」
「うん」
 覚えている。パーティ後のいい思い出だ。束の間だったけれどリーンハルトと二人で楽しかった。
「レティシア、もう一度思い出してみてくれ、子供の頃のこと。ゆっくり目をつぶって」

 
 目を閉じて石の温かさに集中していると、ふわりと靄がかかる。その先に幼い頃の記憶が流れ始めた。家族との初めてのお茶の時間。そう確かリーンハルトはあのとき……自分の分のお菓子を分けてくれた。

「あなた、私にお菓子をくれたわ」
「それから?」

 ――嬉しかったのに「ありがとう」の一言が伝えられなかった。

 幼さをまだ残すリーンハルトが屋敷の中を案内してくれる情景が見えてくる。
 
 二人は毎日一緒に広い屋敷の中を探検するようになった。レティシアは天井の高さや美しい装飾に目を見張る。
 リーンハルトが「迷子になるから」と言って手を繋いで歩いてくれた。
 下町の育ちのレティシアは美しい芝生や樹木、花壇が珍しかった。
 
 そして古い池の前にやって来る。リーンハルトが嬉しそうに青い瞳を煌めかせレティシアを振り返る。
「レティ、人に見せびらかしちゃダメっていわれているから、父上と母上に秘密だよ」
 そう言って、池の水を波立たせ、噴水を見せてくれた。レティシアは陽光を受けてキラキラと輝く水滴がとても美しかったことを覚えている。


 記憶が遡り、レティシアが初めてシュミット家に来た日の情景が浮かぶ。
「僕の名前はリーンハルト。よろしくね。レティシア」
「リーンハルト、レティシアはお前の姉になるんだよ」
とオスカーがリーンハルトに言う。

「それじゃあ。レティシア姉さんになるのかな?」
といってにっこりとレティシアに笑いかける。金髪碧眼の天使みたいに綺麗な男の子が手を差し出す。
 レティシアは彼に挨拶しようとしたけれど気おくれして上手く言葉が出ない。
「リーン……」
「え?」

 孤児院ではレティと呼ばれていた。

「……レティ」

 レティシアのか細い声を拾ったリーンハルトがにっこりと笑う。

「わかった。レティ、僕の事はリーンでいいよ」
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