貴方と私は秘密の✕✕ 〜地味系女子はハイスペ王子に夜の指南を所望される〜
 給湯室からは相変わらず職場仲間の下世話な雑談が聞こえてくる。その中では紺野洋子が合コンに頻繁に参加し、解散時には男性と二人きりでどこかに消えていくことがあることも語られていた。

 何という裏切りか。
誰が自分の味方で、誰が陰で自分を笑っているのか。出張帰りの疲れた心と体では冷静な判断ができそうな気が全くしない。

 頭の動きが急に鈍くなるのを感じつつ、ふと目を上げてみると、目の前にはコーヒーカップを片手にこちらを見つめる女性の姿。
……ああ、彼女も給湯室に入れずに困惑しているといったところなのだろうか。

 自身も困っていると言うのに、こちらを見つめて「あんな噂をされてお気の毒に」と言った表情を浮かべている。
憐れまれているはずなのに、その視線からはなぜか包み込まれるような慈しみのようなものを感じてしまう。

 なんだか今日は、一人になりたくない。
 誰かと何かを話していたい。

 だからなのだろうか。
ついそんなことを思ってしまった神山透は、目の前の彼女、総務課の山本郁子さんに「これから飲みに行きませんか?」なんて、誘ってしまったのだった。

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