貴方と私は秘密の✕✕ 〜地味系女子はハイスペ王子に夜の指南を所望される〜
ーー

 ……とは言ったものの、仕事以外で親しくもない相手と飲みに行くことなど全く無いので、どんな話をしてよいのかなんてわからない。
 ましてや給湯室の会話を聞いてから、この頭は「本日の業務は終了しました」とばかりにこれっぽっちも働こうとはしてくれないのだ。

 居酒屋に到着してからも、山本さんに申し訳ないと思いつつ無言でいると、彼女はここでも気まずくならないよう、明るく、そしてさり気なく場を和ませる話を続けてくれるのであった。

 ……優しい人なんだな。

 その気遣いに、心がじんわり温かくなる。
彼女の細かい配慮もさる事ながら、話のチョイスというか、その語られる内容のあちこちに独特のセンスが見え隠れして、それがまた面白くて好ましい。
 悟られることないように、コッソリ目の前の相手の様子を伺ってみる。
 中肉中背、肩まであるダークブラウンの髪。可愛らしいと言えば可愛らしいが、これと言って特徴のある容姿ではない。
 けれども、なぜか心惹かれて目が離せない。

 善良な性格を物語る様なその瞳が、何か興味のあるものを見つける毎にキラキラ輝く姿は大変に美しいと思うし、なにより話をしているの時にコロコロ変わる彼女の表情の豊かさと言ったら、見ていて飽きることが全く無い。
本人は気がついていないのだろうけれど、それがなんとも生き生きとしていて、大変に魅力的なのである。

 店内のオレンジの照明に照らされた艶めく髪には光の輪が現れている。そして気がつくと彼女の周りもなぜだか光が乱反射して神々しくキラキラと輝いている様な気さえもしてくる。

 ……あれ?
ここにいるのはもしかして、天使だったりする、の、か、な???

 強かに酔っていたせいなのかもしれない。
けれど一方的に人の汚い感情を見せつけられてまあまあ深手のダメージを負っていた自分には、目の前の彼女は自らの生命力を分け与えて周囲の者の傷を癒やす、まさに心優しき神の使いにしか見えなかったのだった。

< 131 / 144 >

この作品をシェア

pagetop