俺様御曹司のなすがまま、激愛に抱かれる~偽りの婚約者だったのに、甘く娶られました~
「ひどいな。こんなひどい男置いて行こう。飛鳥ちゃん」

 時計を見ると、そろそろここを出なければいけない時間だ。

「そうですね。遅刻してもいけないし」

 バッグを手に取った彼が引き留める。

「おい、もう行くのか? 冷たいな」

「仕方がないでしょ。私がヘイムダルホテルで働けるのはあと少しなんだから」

「あぁ、もうすぐ飛鳥ちゃんの出向期間がおわるんだっけ。リッチモンドに戻るの?」

 野迫川社長の問いかけに、私は首を振った。

「いいえ。ブライダル事業への参入が見送られたので、私の戻る場所なくなっちゃいましたから。転職活動します」

「なるほど、あ。俺のところなんてどう? 飛鳥ちゃんなら、いつでおオッケー」

「え! それはありがたいかも」

「やめておけ、こいつ仕事に関しては俺よりも厳しいぞ」

 たしかにそうだった。普段のほほんとして見える野迫川社長は、仕事となったら別人格が憑依しているかのようになる。

「またすぐに邪魔する。ほら、もう行こう」

 野迫川社長に引っ張られて、出口に向かう。振り向くと彼が軽く手を上げて、笑っていた。

 騒々しいみまいになってしまったが、きっといい気分転換になっただろう。

 私は廊下を歩きだしたが、ふと思い立ち足を止めた。

「忘れ物したみたいなんで、先に行ってください」

「え、待つよ」

「いいえ、先に行ってください。では、また」

 私は頭をさげて踵を返し、今きた廊下を歩いてもう一度彼の病室に向かう。病室の扉を開け顔を出すと、ノートパソコンに向かっていた大輝さんが驚いた顔をした。

「忘れ物か?」

「はい。大事なものを」

 私が近づくと彼が不思議そうにこちらを見た。顔を傾けて彼の唇にキスをする。一瞬目を見開きびっくりした彼を見て少しおかしくなる。いつも私が驚かされてばかりだから、してやったりだ。

「なるほど、キスがしたくて帰って来たのか?」

「お見舞い手ぶらだったから」

 言い訳にもならない言い訳をして、私が微笑むと彼がうれしそうに笑う。

「見舞いって言うなら、もっと効き目のありそうなのしてほしいな。例えば、こういうのとか」

「えっ……」
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