俺様御曹司のなすがまま、激愛に抱かれる~偽りの婚約者だったのに、甘く娶られました~
 ラーメンを食べなら答えると、御杖部長は小さくため息をついたあと「気をつけろよ」と言った。

何に気をつければいいのかわからない私だったが、すぐに別の話題になってそれ以上特に気にしなかった。

「仕事はどうだ?」

「はい。楽しいです」

 まだまだできないことも多い。天川さんの雷がつい最近も落ちた。

それでも新郎新婦と向き合い、ふたりの幸せの出発点となる結婚式を一緒に作る仕事はとてもやりがいがある。

「そうか、お前はたくましいな」

「それって、ほめてますか?」

 少しの非難の意を込めて、目だけちらっと御杖部長を見る。

「ほめてるに決まってるだろ。よくがんばっているよ」

 普段は嫌味の方が多いのに、こんなふうにまともに褒められると気恥ずかしくなってしまう。

「あ、ありがとうございます」

「男にふられても、同僚に意地悪されても、急に理不尽に出向を命じられても、それでも置かれた場所でがんばってるよ」

「あの、やっぱり褒めてませんよね?」

「いや、すごいと思ってるさ」

 笑いながら言う彼の声色は優しい。きっとさっきの言葉も嘘ではないのだろう。私も素直に受け取るべきだ。

「あのころは、本当にどん底でしたから。まぁ、御杖部長みたいに将来が約束された人は経験しませんよね。あんなこと。あ、なんだか僻みっぽくなってしまって……すみません」

「いや、それに俺だって何もかもが思い通りになるわけじゃない」

 食べ終えた彼はお箸を置くと、ふと呟くように言葉にした。

 私はどういう反応をしたらいいのかわからず、彼の言葉を待つ。

「聞きたい……って、顔してるな」

「まぁ、興味はありますね」

「生意気だな」

「すみません」

 彼は小さく含み笑いをして、それから口を開いた。

「小さい頃、パイロットになりたかったんだ」

「はい? あ、すみません。なんかいきなりで」

 唐突な話題に、思わず失礼な声がでてしまう。しかし彼は気にしないで、テーブルに手をついて話を続ける。

「まあでもすぐ目の前に置かれているレールが見えるわけ。そこから逃げられない。将来はえらべない人生だから。それでもなんとか自分の希望を通して、アメリカでの仕事を軌道にのせたのに、次は日本で不振事業の立て直し。いいように振り回さる人生に嫌気がさしてたんだ」

「それは……さっき失礼なことを、すみません」
< 37 / 112 >

この作品をシェア

pagetop