俺様御曹司のなすがまま、激愛に抱かれる~偽りの婚約者だったのに、甘く娶られました~
 本当の婚約じゃないんだから、と言いそうになったがこれを言うと彼がなぜか不機嫌になるので口を慎む。

 不満をあらわすようにわずかに尖らせた唇に、彼は小さなキスを落とす。

「あ……っ」

「お前がキスしたそうに唇尖らせたから」

「そ、そんなわけないじゃないですか! 急にやめてください」

「じゃあ、次からは〝今からキスするぞ〟って言えばいいのか?」

「それはそれで身構えちゃうから、ダメです」

「何だよそれ、あはは」

 何がおかしかったのか、御杖部長……っと、大輝が私の目の前で声を出して笑っている。

 普段からふたりのときは〝大輝〟と呼ぶようにと言われているのをついすっかり忘れてしまいそうになる。

 それよりも問題なのはキスだ。

「今のキス必要でしたか?」

「大事だろう、婚約者なんだから。キスは」

 そう言われると言い返せない私は、無言で彼を睨む。

「そんなに睨むなよ。キス以上は、お前の同意がなければしない。それは誓う」

 ちらっと視線だけで彼を見る。大輝は少々強引だが、約束はきちんと守る人だ。

「なんだよ、信じてないのか?」

「いいえ、それよりも野迫川社長遅いですね」

 実は今日は野迫川さんが、大輝さんの見合い話をしに来るのだ。

 先日断った相手があきらめきれないらしく、せめて一度会うだけでもと食い下がっているらしい。

 まあ、仕事もできてこの見た目なら、結婚相手としては申し分ないもの。

 しかし一度断ったにも関わらず、まだ引き下がらない相手を大輝さんは快くおもっていない。そこでこの婚約者(偽装)の私が駆り出されたのだ。

「なあ、アイツが来る前に、もう一度俺の名前呼んでみろ、目を見て。ほら」

「いや、もう大丈夫ですから」

 彼が立ち上がり、顔を寄せてくる。わざと私を恥ずかしがらそうとしているのはみえみえなのに、彼の思惑通りに反応してしまう自分が憎い。

 彼の視線から逃れようと顔をそむけた瞬間、部屋をノックする音が聞こえた。野迫川さんが来たのだと思い扉に顔を向けた。

 しかし次の瞬間扉が開くと同時に彼が私の腰を引き寄せ唇を奪った。

「えっ……ん」

 驚いた私は彼の胸を手で押して距離を取ろうとしたが、逆に腰をもっと引き寄せられる。それに合わせて彼から与えられるキスが深くなる。

 な、なんで今?
< 54 / 112 >

この作品をシェア

pagetop