俺様御曹司のなすがまま、激愛に抱かれる~偽りの婚約者だったのに、甘く娶られました~
「あ! ワンピース。すごく素敵でとっても気に入りました。ありがとう」

「俺もそこまで似合うとは思わなかった。さすがだろ、俺?」

「え、あはは。さすが、私のことよくわかってるなって」

 談笑をしていると食前酒のシャンパンが運ばれてきた。

 ふたりの前のグラスにスタッフが静かに液体をそそぐと、シュアシュワと耳に心地よい音を響かせる。

「じゃあ、俺たちの初デートに乾杯」

「乾杯」

 グラスを掲げた彼に合わせて私のグラスを軽く持ち上げる。少し辛口のさっぱりした味わいに乾いた喉が潤った。

「はぁ、美味しい」

「ここ、メニューはないんだ。気まぐれで出てくる」

「え、面白そう。こういうとき好き嫌いがなくて得したと思います」

「ああ、食べる前からそんなにうれしそうにしていて、連れてきたかいがあった」

 そんな話をしているとタイミングよく料理が運ばれてくる。

 前菜はガラスの大きなプレートに彩り豊かな料理が少しずつ並んでいる。カプレーゼやマリネなどおなじみのメニューだが味や素材が独創的で感動を覚える。

「ん~おいしい。ヘイムダルのイタリアンもかなりおいしいですけど、ここはいい意味でクセがあるっていうか、前菜なのにおかわりしたいっていうか」

「感想が独特」

「すみません、語彙力がなくて……」

「いや、俺も新鮮だ」

 口元を緩ませた彼が、美しい所作でパプリカを口に運んだ。

 思わずじっとみつめてしまう。何度か食事を一緒にしているが、とても綺麗に食事をする。

 それがたとえおにぎりだろうかラーメンだろうが。

 飲食店で勤務していて思ったのだが、食べ方にはある程度の人柄がでるのではという持論がある。

 それに当てはめると、彼はその見かけや肩書から不遜に見えることがあるが実際はそうではない。相手を気遣い、マナーを守る。

「何、そんなに見られると食べづらい」

「ごめんなさい。綺麗に食べるなって思って」

「そうか? 普通だろ」

 グラスを持つ指先まで美しいと思うのは、自分が彼を好きだから欲目で見ているのだろうか。

「何だか、私。普段の大輝さんのこと何にも知らないかも」

 感情に突き動かされて好きになり、勢いで告白しつき合うことになったのだから仕方ないのだけれど。

「俺だってお前のこと知らないさ。口開けて寝るとか、風呂では必ず鼻歌歌っているとか」

 「な、何で、そんなこと! もっといいところないんですか?」
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