俺様御曹司のなすがまま、激愛に抱かれる~偽りの婚約者だったのに、甘く娶られました~
 恥ずかしいところばかり知られている事実に焦る。

「俺にとってはお前の〝いいところ〟だよ。最高に力が抜ける。仕事でもプライベートでも面倒なことが山積みだからな」

 口元は笑ったままだったが、視線をわずかに伏せた。

「なにか……大変なの? 私にできることはない?」

 仕事も一人前にできないのに、生意気だろうか。けれど彼が今何に悩んでいるのか知りたい。

 自分にわきあがってきた感情からふと気が付いた。元カレの時にはこんなこと考えなかった。

 もちろん彼から話をしてくれれば、耳を傾けた。

 しかし積極的に彼のことを知りたいと思っていただろうか。私が彼にもう少し興味を持っていれば浮気などされなかったに違いない。

 しかし大輝さんとの恋は違う。どんな些細なことでも知りたいし彼の力になりたい。

 私は改めて彼に対する自分の思いの強さを自覚した。

「心配するようなことはない。立場上たいていいつもなにかしらあるものだ」

「そう……わかった」

 彼にしてみればこれまでひとりで解決してきたのだから、私が手を出したところでどうにかなるわけではない。わかっていても自分の力のなさに少し落ち込んだ。

「お前がそんな顔するなよ」

「でも」

 私が反論しようとしても、彼が遮る。

「別に特別なことしなくていい。隣で飯食って、笑って、大きな口開けて寝て、俺に抱きしめられていればそれでいい」

「う……何にもしてないのと一緒じゃないですか?」

「それでいいんだよ。そこにいてくれることが大切だから」

 甘く真剣なまなざしに見つめらえて、胸がドキンと大きな音をたてた。彼は何かができるから何かを持っているから私を思ってくれているわけではないのだ。

私そのものを好きだと言ってくれていると思うのは、うぬぼれだろうか。

「わかった。でも、何かできることがあれば遠慮なく言って欲しい」

「俺が遠慮なんかすると思うか? まずはそうだな――」

「いや、無理にしぼりだなさくてもいいです」

 無理難題を吹っ掛けられそうな気がして、慌てて止める。彼はクスクスと笑っていた。

 前菜からはじまった食事は、魚料理肉料理に続きデザートまで完璧だった。

 農家と直接取引している野菜は味がとても濃く、どの料理にもマッチしていた。

「はぁ、もう食べられません」

 デザートの後の紅茶を一口飲んだ私は、本当においしかったと満足した。
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