俺様御曹司のなすがまま、激愛に抱かれる~偽りの婚約者だったのに、甘く娶られました~
「その通りなんだ。そして出向から帰った君がブライダル事業部の責任者になるならば、その責任は必然的に君にもふりかかると……」

「そんな、私何も知らなくて」

 目の前にあるものだけ、見えているものだけですべてを判断していた。感情のまま話もきかずに、一方的に彼を責めた。彼は私を守ろうとしてくれていたのに。

「まあ、あいつが何も言わないんだから知らなくても仕方ないよな。それに僕たちみたいな立場の人間は言えないことも多いから」

「それは、理解しています。いや、そう思っていただけかもしれません」

 自分の考えの浅さに、落ち込む。

「私ちゃんと大切にされていたんですね。彼が徳川さんと結婚するとしても、これで少し救われました」

「徳川さん……ってあの、徳川沙耶さん?」

「はい先日、大輝さんと事務所で会っているのも見ましたし、お電話も何度かあったみたいです」

 最後は声が小さくなってしまった。やっぱり好きな人がほかの女性と――と考えると、割り切ろうとしても難しい。

「やっぱり、結婚と恋愛は別なんですかね」

 あまり暗くならないように笑って見せたが、自虐感が半端ない。

「そうかな、少なくとも大輝はそんな器用な奴じゃないと思うけど。普段は取り繕ってるけど案外わかりやすいだろ?」

 わかりやすい? 大輝さんが?

「そうでしょうか」

 私が納得しないでいると、野迫川社長は憐れみの笑みを浮かべた。

「これは、大輝も苦労するな。まあ、そういうところが君の魅力ではあるけれど。やっぱり俺じゃダメ?」

 私の負担にならないように、わざと明るく言ってくれているのが伝わってくる。

「はい。ごめんなさい」

「はぁ、へこむなぁ。こういうとき僕が出来た男なら大輝に連絡をして迎えに来させるんだろうけど、あいにくそこまでお人よしじゃないから」

「十分お人よしですよ。こんな私に優しくて。……でも、彼は来ないです」

 大輝さんは私にも優しい。

 だからこそ私がリッチロンド内のトラブルに巻き込まれれないようにしてくれた。

 けれど女性としては……徳川さんを選んだ彼が、私に特別優しくするなんてことはない。それが本当の優しさじゃないと、知っている人だ。

 どんな理由であれ、彼が選んだのは私ではなかった。

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