俺様御曹司のなすがまま、激愛に抱かれる~偽りの婚約者だったのに、甘く娶られました~
 もう一度ゆっくりと立ち上がる。今度は平気みたいだ。シャワーを浴びて目が覚めれば、問題ない。私は重い体をひきずりながらバスルームに向かった。

 ドレスやブーケ、当日の参加者の最終確認を行う。その後、写真の前撮りをするまでが今日の予定だ。

「素敵です、本当に素敵」

 前撮りのための個室でウエディングドレス姿の新婦を見た私は、その姿に感情が高ぶってしまう。

「あの、飛鳥さん。主人のこと……ご迷惑をおかけしました。でも飛鳥さんたちスタッフのかたのおかげで、今日の日を迎えられて本当に幸せです。ありがとうございました」

 深々と頭を下げられて、私の目に涙がにじむ。

「いえ、私たちはおふたりが、思い出に残る幸せな式を挙げられるように全力を尽くします」

「飛鳥さん、私あなたに担当してもらえて本当にうれしかった。最後までよろしくお願いします」

 温かい言葉に、胸が熱くなる。こぼれそうになる涙をごまかしながら、私は会場のチェックがあるからと控室を出てあちこちと忙しく動き回った。

 ヘイムダルホテルの庭や、チャペル、会場の一画などを使って、写真を撮っていく。

 互いを思いあっているふたりの様子はカメラを通しても伝わり、素敵な写真がたくさん撮れた。

「飛鳥さん、順調に進んでるか?」

「御杖部長。はい。予定通りです」

 返事をした私の顔を大輝さんが覗き込む。

「少し顔色が悪いみたいだけど、大丈夫なのか?」

 どうして気が付くの? 今はそんなふうに優しくされたくない。一生懸命強がっている気持ちがぐらぐらと揺らいでしまう。

「それならいいが、あまり無理するなよ。少し時間が空いたから挨拶にきたんだ」

 御杖部長は、新郎と新婦の話し合いに同席したいきさつから、ふたりの様子を確認しに来たのだろう。離れた場所から、見つめ合うふたりを見ている。

「困難があったふたりですけど、本当見ていてうらやましいくらいです」

「飛鳥さんも、あんな結婚に憧れる?」

 突然聞かれて心臓がドキッとする。しかし私はそれにきづかれたくなくてごまかす。

「御杖部長、それって立派なセクハラですよ」

「そうか、悪かったな」

 彼の方も深く追求してこない。それなのに私は……。

「私はきっと、好きな人とは結婚できないから」

「……それはどういう意味だ」
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