俺様御曹司のなすがまま、激愛に抱かれる~偽りの婚約者だったのに、甘く娶られました~
「はい、あの」

「はぁ、はぁ。ならよかっ……た」

 そこまで言葉にした彼は、ふらふらとその場に倒れそうになる。私は慌てて手を伸ばし彼を抱きとめた。

 そのとき彼の脇腹のあたりで、ぬるっとした感触がした。手を見ると赤黒い液体が手についている。

「なに、これ」

 理解できずに、彼の顔を見る。血の気が引いて息が荒く、痛みに耐えるかのように目をすがめる。

「お前が……はぁ、無事なら……」

「やだ、誰か来て。誰かぁああああ」

「大輝さん、もうしゃべらないで。ヤダ、ねえ」

 涙があふれてきて彼の顔が歪む。

 どうしてこんなことに、なったの。

 彼を刺した林さんが駆けつけてきた警備員に取り押さえらえている。彼の手には私に向けられたはずの血に染まったナイフがあった。

 私をかばって……こんなこと。

 ボロボロと泣くことしかできない。

「大輝さん、大輝さんっ」

 彼の手が伸びてきて、ゆっくりと私の頬に流れる涙を拭う。いつもよりも冷たい指先に、彼を失ってしまうかもしれないという恐怖を感じる。

「誰か、助けて。大輝さんが、死んじゃう」

「泣くな、はぁ……はぁ。もう未央奈の……泣き顔は見たくない」

「しゃべらないで。傷が……」

 すぐに救急隊がやってきて、彼が運ばれていく。彼から離れたくない私は一緒に救急車に乗り込んだ。

 運ばれている間、私はだまったまま、自分を守ってくれた彼の手をずっと握り続けた。

 病院に到着後、すぐに処置室に運ばれた彼。

 その処置室の扉が閉まった瞬間、私はその場で眩暈を感じた。

「大丈夫ですか?」

 誰かが私に声をかけるが、まともに返事ができない。ここのところ感じていた体調不良がここにきて一気に押し寄せてきたようだ。

 薄れていく意識の中でも、私はずっと彼の名前を呼び続けた。



 真っ暗な空間の中。私はひとり立っていた。急に明るくなった一か所に目を向けると、大輝さんが立ってこちらに背をむけている。

 よかった、元気そう。ほっとした瞬間彼が振り向いた。

『大輝さん』

 声をかけると彼が笑顔で振り向いた。私も顔をほころばせ彼に向かって駆け出す。

 手を伸ばしもうすぐ彼に手が届くというところで、彼の笑顔が私の後ろに向けられていることに気が付いて後ろを振り向いた。

 徳川さん……。

 目の前にいる私を無視して、徳川さんに歩み寄る彼。
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