【受賞】幼妻は生真面目夫から愛されたい!
 直後、背後でガラス戸が引かれる音がした。
「お背中をお流しします。昔は、お父さまの背中も洗っていたのですよ」
 その声に思わず振り向くと、シュミーズ一枚しか身に着けていないオリビアが立っていた。そのシュミーズの丈も膝上十センチ程度で、色の白い太腿がちらちら見え隠れしている。
(こ、これは……。拷問か? それとも試練なのか)
 すぐさまクラークは視線を逸らした。これ以上、彼女を見てはいけない。
「カトリーナ様から、素敵な石鹸を教えていただいたのです」
 オリビアは無邪気な声色でそう言った。
 カトリーナとは、オリビアも懇意にしている公爵夫人の名だ。変な男の名が出てこなかったことに胸を撫でおろす。
 それに彼女は、アトロとも風呂に入ったこともあると言っていた。もしかしたら、クラークのことを亡き父の面影と重ねているのかもしれない。
「頼む」
 息を吐き出すと共に、その言葉が漏れていた。
(お、俺は。何を口走ったんだ? いや、だが彼女は、団長のことを思い出しているのだろうな。悪いことをした……)
 クラークは後ろを振り向くことはできなかった。むしろ、彼女を見てはならない。
 膝立ちをしたオリビアが、香りのよい石鹸を泡立てている。
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