【受賞】幼妻は生真面目夫から愛されたい!
 だが、ちらちらと視線を感じる。視線の主はオリビアしかいない。
(何だこれは。俺の天使は俺を試しているのか? いや、違う。これは俺の妄想だ。俺の妄想によって、そう見えるだけだ。団長、俺はけして彼女を邪な目で見ているわけではありません)
 心の中のアトロに謝罪する。
(寝る、寝る、寝る、寝る。俺は寝る)
 何度も心の中で唱えることで、これ以上妄想が広がることを制御しようとする。
 カチリと間接照明を消す音がした。
 薄闇に包まれる部屋。
 オリビアもベッドで横になろうとしているのだろう。すすっという衣擦れの音が、クラークの妄想を刺激する。
(耐えろ、俺。ここは……。そうだ。あいつらと雑魚寝をしているんだ。だから、隣にいるのは部下たちだ)
 隣から感じる人の気配は、騎士団の団員たちと思うことにした。
 だが、隣からはいい匂いがしてくる。あの風呂に浮かんでいた花の香りだ。
 同じ風呂に入ったはずなのに、彼女からはいい香りがしてくるのが不思議だった。
(耐えろ、俺。今までも耐えてきただろう。もう少しでこの試練から解放されるというのに。今、誘惑に負けてあきらめてしまってどうする)
 ゆっくりと呼吸を整える。
 そうやって、意識を手放そうと試みる。
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