【受賞】幼妻は生真面目夫から愛されたい!
10.生真面目夫の場合(4)
◆◆◆◆
 クラークが初めて見た映画は「素晴らしい」以外の言葉が出てこなかった。映画に用いられている技術はもちろんのこと、それに出演している役者、映画を彩る音楽、そしてカメラワーク。隣国の技術と芸術性の高さを実感させられるものであった。
(だが、あれはいいのか?)
 クラークはスクリーンの下から上へと流れてくる人物名を目で追っていた。横目でオリビアを確認すると、先ほどのハンカチで目の下を押さえている。
(こんなに大きな映像で見るべきものなのか?)
 ヒーローとヒロインのまぐわいシーンを、ほんの十数分前に大スクリーンで見た時には、かなり動揺した。動揺した挙句、彼はいつの間にか映画のヒーローとヒロインを、自分とオリビアに置き換えていた。
 二人の境遇が、自分たちの立場に似ていたからだ。
(タイトルの『禁じられた遊戯』は、あのシーンからきているのだろうな……)
 まだ立つことのできないクラークは、ぼんやりとそんなことを考えていた。
 会場が明るくなり、周りの観客たちが立ち上がっても、彼は立ち上がれずにいた。それはどうやら彼女も同じようであったが、恐らく理由は異なるだろう。
 ある程度、人がいなくなったところで彼女が言葉をかけてきた。
 そろそろここから出てもいいだろう。
< 65 / 90 >

この作品をシェア

pagetop