【受賞】幼妻は生真面目夫から愛されたい!
 映画館に入った時から感じていた視線。それは彼女を見る視線だ。老若男女問わず、一度は必ず誰もが視線をオリビアへと向ける。
 そしてオリビア自身はそれに気づいていない。たくさんの人の視線を集めているということに。彼女は無防備なのだ。
 だから、人がいなくなってからここを出たかった。
 クラークは残っていた飲み物を一気に飲み干すとゆっくり立ち上がる。そして彼女の前に手を差し出した。
「出ようか」
 もちろん、「この手を握れ」という意味で彼女の前に手を出した。
 少し躊躇ってから、彼女は手を握り返してくれた。
(今はまだ、彼女は俺の妻だ)
 誰にも奪われたくないという思いが強くなる。だがアトロとの約束も忘れていない。
 上映ホールから出るときに、空になった飲み物の入れ物を回収するようだ。こういったことにも真新しさを感じる。
「オリビア、迷子になるといけないから、俺から離れるな」
 上映ホールから溢れてきた人の多さに驚いたのか、彼女は不安げな様子で頷いた。
 繋がれた手に力が込められる。
(か、可愛い……。社交界でもないのに、これだけたくさんの人がいるから、彼女も驚いてしまうのは無理もないな。早くここを出て、静かに過ごせる場所へ向かわねば)
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