断る――――前にもそう言ったはずだ
「――――別に、君が謝ることではないだろう。
だが、今日は昼から時間が取れる。来訪者の対応は僕が行おう」

「え? けれど……」


 エルネストの背後で秘書官が渋い顔をしている。恐らくは『時間が取れる』のではなく、『時間が取れないこともない』というところなのだろう。

 この三年の間に、彼が担う公務、責任は格段に重くなっている。モニカとしては、任せられる部分は任せてほしいところなのだが。


「けれど、ではない。僕が行うと言っている」

「そうですか……ありがとうございます、エルネスト様。
それでは、わたくしも同席を――――」

「断る。対応は僕一人に任せてほしい」


 エルネストはきっぱりとそう言い放った。
 彼の表情は冷たく、取り付く島もない。
 これ以上見ていられず、モニカは思わず俯いてしまった。


(どうして……? エルネスト様にとってわたくしはそんなにも頼りない存在なの?)


 エルネストの生活リズムを乱す上、安心して公務を任せることもできない。
 そんな妃に価値はあるのだろうか?


 湧き上がる疑問。思いのままに尋ねられたらどれほど良いだろう。
 けれど、尋ねたところで、返ってくるのは呆れたようなため息に違いない。

 モニカはグッと言葉を飲み込み、それから無理やり笑みを浮かべる。


「承知しました。エルネスト様の仰せのままに致します」


 肩を落とすモニカに向かい、エルネストは「ああ」と返事をした。
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