断る――――前にもそう言ったはずだ
(そうだわ、コゼット!)


 ヴィクトルに襲われかけたことで忘れかけていたが、そういえば彼女はどうなったのだろう?


「エルネスト様。あの……コゼットは?」

「コゼット……? ああ、あの侍女か。
君のことを聞き出して、騎士に引き渡してきた」


 エルネストはそう言って、忌々しげに顔を歪める。
 寝室でのやり取りについて、思い出すのも嫌なのだろう。
 とはいえ、コゼットが口を滑らせたおかげで、モニカの貞操は守られたのだが。


「けれど、あの子はエルネスト様に想われていると……『可愛い』『愛しい』と言われていると言っていて…………」

「そんなこと、ある筈がないだろう? 僕はモニカだけを愛している。何があっても、他の女に触れることはない。
大体、君に伝えたくて伝えられない言葉を、他の誰かに言えるわけがない。僕はこの世の全ての褒め言葉は、君のためだけに存在すると思っているよ」


 真剣な眼差し。とても嘘を言っているようには思えない。
 だとしたら、とてつもないギャップだ。


(嫌われているとばかり思っていたのに)


 これまで向けられてきた冷たい表情の裏には、そんな感情が隠れていたのか。俄には信じがたい話である。


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