※エリート上司が溺愛する〈架空の〉妻は私です。
(何でこんな日に限って食堂に来いって言われたんだろう?)
お弁当を食べながら横目で肝心の静流を探してみたが、今のところ食堂のどこにも彼の姿はない。まさか紗良に食堂に行くように指示しておいて、自分は会社の外に昼食を食べに行くなんてことはあるまい。
木藤と話しながら半分ほどお弁当を食べ終えたところで、ようやく静流が食堂に現れる。
配膳の待ち行列に目もくれず向かったのは、吉住が他部署の同期とよろしくやっている六人がけのテーブル席だった。
「吉住くん、先日は保険証を預かってくれてありがとうございました」
「え?いえ、大丈夫っすよ」
二週間以上前の出来事に関するお礼を今頃言われ、吉住は傍目にもまごついていた。
「マンションの外でずっと待っていたそうですね?」
「はい」
「それでは入れ違いになったんでしょうね。あのマンション、正面入口とは逆方向に裏口があって帰る時はそちらを使ったんです」
「え!?そうだったんですか?」
吉住は素っ頓狂な声を上げた。なぜ今まで言ってくれなかったのかと、心にひっかかるものもあるだろう。
(確かに裏口はあるけど……)
静流の説明は間違ってはいない。確かに紗良達の住んでいるマンションには正面入口の他にもゴミ捨て場に直行できる裏口がある。しかし、裏口を使って帰ったから不倫をしていないことにはならない。静流の説明には少し苦しいものがある。
それでも、静流は話を続けた。