※エリート上司が溺愛する〈架空の〉妻は私です。
ニュースに飽きた紗良は風呂に入ると、早々に寝る支度を整えベッドに入った。
寝つきが悪い方でもないのにこの日はなぜか思うように眠れず、タオルケットを頭から被り直した。
一時間ほどベッドの中で寝がえりを打ち続けようやく眠気が訪れ始めた時、突然玄関のシリンダー錠がガチャリと回る音が聞こえた。
ガサゴソと動く気配に期待が膨らんでいく。紗良はタオルケットを足で跳ね飛ばし、恐る恐る玄関の様子を窺いにいった。
見覚えのあるシルエットに声が震える。
「静流さん……?」
「あれ?紗良さん、まだ起きてたんですか?」
「一泊してくるんじゃなかったんですか?」
「電話を切る時の紗良さんの声が寂しそうだったので、動いている在来線とタクシーを乗り継いで帰ってきました」
(寂しそうだった……?)
特に意識していなかったが知らず知らずのうちに静流を恋しく思っていたのだろうか。
「なんてね。本当は私が紗良さんの顔が見たくてこの部屋に帰りたかっただけなんです」
静流は悪戯が成功した子供のように無邪気にはしゃいでいた。
「紗良さん?」
「や、あの……。だって静流さんがこんな無謀なことをする人には見えなくて驚きました」
一泊した方が時間もお金も節約出来て楽なのに、帰宅を選択した突飛な行動には驚かされるばかりだった。
「私だって初めてですよ。こんなことしたのは」
「木藤さん達にはなんて言ったんですか?」
「愛する妻が待ってるので帰りますとだけ」
遠回しな愛の告白に頬が徐々に熱を帯びていく。静流の表情に含まれる盲目的な愛しさと甘さに気づいてしまったらもうだめだった。