※エリート上司が溺愛する〈架空の〉妻は私です。
「ただいま」
スピカに寄ってから帰宅したというのに、静流はまだ出張から帰ってきていなかった。
時刻は夜の十時。今日は木藤と吉住に同行し、お得意様の食品メーカーが新規竣工した冷凍工場に視察に行っている。
視察自体は夕方には終わるはずなので、とっくに帰ってきてもおかしくないはずだ。
何かあったのだろうかと思いを巡らせた時、スマホが着信を知らせた。相手は静流だった。
紗良が電話に出ると静流は自分の状況をかいつまんで説明した。
「新幹線が運休?」
『はい、沿線の火災の影響で今夜はもう動きそうもないようです。現地のホテルが予約できたので一泊してから帰ります』
「わかりました……」
静流からの電話を切った後、テレビをつけると沿線火災の件が報道されていた。怪我人はいないようだか、新幹線のダイヤに大きな混乱が生じている。中継では多くの人が立ち往生している様子が映し出されていた。
今日は帰ってこないと聞いて、紗良はどこか寂しさを感じていた。家の中にいたらいたで落ち着かないけれど、いないとなると途端に心細くなる。
(よく考えたら、この家で夜ひとりきりになるのって久し振りかも……)
静流とルームシェアを始めるようになってから、一人きりで夜を過ごすことはめっきりなくなった。静流の存在が紗良にとってどれほど大きいか自覚せざるを得ない。