※エリート上司が溺愛する〈架空の〉妻は私です。
二人が揃って出掛けたのは繁華街の中でもジュエリーショップが多く立ち並ぶ高級商業地だ。
結婚指輪と言えばこのブランドが良いと、全女子から名指しされる『Candy』というハイブランドのお店に連れて行かれる。
静流は真剣な眼差しでショーケースを見つめていた。本来ならそのポジションは妻役である紗良のものである。
紗良だって結婚指輪に憧れた時期もあった。幸せの象徴とも呼べるプラチナ製の輪っか。つけている人が羨ましくて、いつか自分もと淡い夢を見た。……今は全然そんな気もなくなってしまったけれど。
「こちらの指輪にしようと思いますが?どうですか?」
静流は十五分ほど悩んだ末に、ダイヤモンドを一粒だけあしらったクラシックなデザインの指輪を選んだ。
「いいですね。お値段も手頃そうですし」
結婚指輪の相場なんて知らないが、まあ売れ筋を押さえておけば間違いないだろう。
「試しにつけてみましょうか」
静流は店員を呼びショーケースの中から指輪を出してもらうと、紗良の左手を取った。
静流の細くて長い指が紗良の薬指をゆっくりと滑っていく。肌を伝う滑らかな感触にゾクリと背中が粟立つ。
指のサイズを確認するだけの単純作業なのになぜか頬が熱を帯びていった。
「ぴ、ぴったりですね……!!これを買いましょう!!」
やましいことを考えていたと悟られたくなくて、紗良は思いのほか大きな声で購入を宣言した。
追加料金を払えば内側に文字を彫れたり、インサイドストーンを埋め込むこともできるらしいが、どちらも不要だと即持ち帰りを決める。