※エリート上司が溺愛する〈架空の〉妻は私です。

「朝は頭がシャキッとするハーブティーを飲むんですが、今日は静流さんの出社初日なので控えめで飲みやすくかつリラックス効果のあるニルギリにしてみました」
「ありがとうございます」

 テーブルにカップを置くと静流は身支度を整える手をとめ、ダイニングチェアに座った。
 レースカーテンから差し込む朝の陽光に照らされながら、二人静かにお茶を飲む。
 嫌がられたり、断られたりすると思っていたのに静流は邪険にせず紗良の趣味に根気強く付き合ってくれる。
 
(良い人だよなあ……)

 静流の人柄を知れば知るほど、この人とルームシェアできた幸運に感謝したくなる。

 静流は紅茶を飲み干すと先週買ったばかりのピカピカの結婚指輪を左手の薬指に嵌めた。

「それではいってきます」
「いってらっしゃい〜」

 飲みかけのカップを片手に静流に手を振る。時計を見ればもう七時半を過ぎている。

「おっと、のんびりしてられない。私も支度しなきゃ」

 紗良は大急ぎで目覚めの一杯を飲み干すと、顔を洗い寝癖を直しパジャマからオフィスカジュアルに着替えた。
 今日は、先週買ったばかりのロングスカートを着ようと心に決めていた。姿見の前で色味を確認し、ブラウスをウエストにインする。
 やや幼さの残る顔立ちなのでメイクは派手過ぎないようにいつも気をつけている。
 肩甲骨のあたりまで伸びた薄茶色の髪はひとつにくくってヘアアクセをつける。ヘアアレンジは苦手なのでもっぱらヘアアクセ頼みだ。

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