※エリート上司が溺愛する〈架空の〉妻は私です。
「担当者に作り直しをお願いしようにも月城さんも外出でして……。それで……」
他課の仕事にケチをつけるとなると、新人には荷が重いだろう。紗良は桐生の意を汲み取った。
「わかった。私と一緒にお願いしに行こうか」
紗良は先輩風を吹かすと桐生と一緒に三課のある下のフロアへの階段を降りていった。
担当者に見積書の間違いを説明すると、直ぐに作り直してもらえることになった。話の分かる人で良かった。
「あの、三船さん。ありがとうございました」
「これぐらい全然平気だよ。桐生さんこそ、細かいところまで気がついて偉いね」
「私なんか全然っ……!!三船さんの方がよっぽど……」
自分を卑下することはないのに、桐生は本当に控えめだなあと紗良は感心した。少しくらい吉住の尊大な態度を見習ってもいいくらいだ。
そんなことを考えながら二課のフロアに戻るために階段を上っていると上の階から周平がやってくる。
「周平……」
「紗良……」
予期せぬ邂逅に二人はしばしその場に立ち止まった。
「ごめんね、桐生さん。先に戻っててくれる?」
「……わかりました」
桐生は周平に軽く会釈すると脇をすり抜けそそくさと二課に戻っていった。
「今日は逃げないんだな……?」
「逃げても追ってくるだけだってようやくわかったの」
多分、この辺が潮時なのだろう。逃げ回るのはもうやめだ。