※エリート上司が溺愛する〈架空の〉妻は私です。
それまで桑名から露骨に誘われたことは何度もあったが、周平は一度も応じたことはなかった。
しかし、これで最後にするからと懇願され仕方なく呼び出しに応じた。
注文したカクテルを一杯飲んでからの記憶はなく、気がついたらホテルのベッドに二人で裸で寝ていた。
その後、桑名の妊娠が発覚した。
身に覚えはなかったが、証拠として写真を撮られていては言い逃れもできない。責任を取る形で入籍したものの、実は子供が出来たというのもデタラメで周平と結婚するための嘘だった。
全てに気づいたときには既に遅かったという。
「証拠はないけど酒の中に何か仕込まれていたんだと思う。ホテルに連れ込んだのも計算の内だろう」
「なんでそうまでして……」
可愛らしい姿形の桑名がそんな非道なことをするとは信じられない。
それに桑名工業の御令嬢である彼女ならそんなことをせずとも、男性が鈴なりになって群がることだろう。そこまでして周平を手に入れようとした桑名の気持ちがわからない。
「俺にもさっぱりわからなかったよ。離婚するのは苦労したけど、あちらも誉められた行為ではないからなんとか押し切った」
周平は努めて朗らかに笑った。それがカラ元気なのは傍目に見て明らかだった。
「ずっと紗良が恋しかった。離婚したタイミングで本社勤務になったのは神様が紗良とやり直せって言っているんだと思った。だから紗良、俺ともう一度やり直してくれ」
今度こそ嘘偽りのない周平の本心を聞いた紗良は大きく深呼吸をした。