※エリート上司が溺愛する〈架空の〉妻は私です。
「自分から不幸になろうとしている紗良を放っておけるもんか!!」
「嫌……っ!!」
紗良はその場から逃げ出そうと思い切り周平を突き飛ばした。しかし、すぐに追いつかれ右腕を掴まれてしまった。
「紗良!!」
「離して!!」
思い切り身を捩った瞬間、足を滑らせ身体が傾いで階下に投げ出されていくのがわかった。
「あ……!!」
落ちると思った瞬間にこれまでの出来事が走馬灯のように駆け巡った。
初めて静流と出逢った時、とっつきにくそうな人だと思った。けれど、それは直ぐに誤解だとわかった。
誰よりも繊細で、傷つきやすくて。気遣い屋な上に料理上手で。心を許した人にはちょっとだけ口が悪くなる。
紗良の紅茶の話を嫌がらずに聞いてくれる優しい人だった。
好きだと言われ、心が躍った。身体を重ねた夜は嬉しくて涙が出た。
(静流さんっ……!!)
「紗良!!」
床に激突する最後の瞬間。紗良の耳には愛しいあの人の声が聞こえた。