※エリート上司が溺愛する〈架空の〉妻は私です。

 精密検査の結果、静流は軽度の脳しんとうだと診断された。右腕の骨に異常はなく、こちらは重度の打撲という診断だった。こちらは二週間程度で治るらしい。
 翌日、経過観察を終えた静流は無事に退院した。二日ほど家で静養したら職場復帰の予定だ。

「あの後、大変だったんですからね!!専務が助けてくれなかったらどうなっていたことか……」

 紗良はベッドで寝ている静流の傍らに座り、ぶつくさと不平不満を漏らした。
 静流が救急車で運ばれた後、紗良は二課の課員から質問攻めにあった。
 静流が独身だというのはどういうことか。紗良と静流とは一体どういう関係なのか。紗良は全て知っていたのかなど。
 矢継ぎ早に質問された紗良は困り果てた。どこまで正直に話せばいいのか、静流とは何の打ち合わせもしていない。
 そんな紗良を助けてくれたのは騒ぎを聞きつけてやってきた専務だった。

『君も階段から落ちたんだろう?念のため病院に行った方が良い。私が病院まで送ろう』

 こうして紗良は静流と同じ病院に連れて行かれ、左腕にできた大したことのない擦り傷に形ばかりの包帯を巻いてもらった。
 そして紗良にも傷病休暇をとるようすすめてくれた。

「あの人に借りを作ると返すのが大変なのですが……お礼を言っておかないといけませんね」

 静流はそう言うと身体を起こし、紗良を抱き寄せた。
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