※エリート上司が溺愛する〈架空の〉妻は私です。
「本当に無事で良かった……」
静流は心の底からそう言うと、無事を確かめるように紗良を力強く抱きしめた。
「私も同じ気持ちです」
紗良が今感じている温もりが永遠に失われなくて良かった。静流のいない生活なんて考えたくもない。
「紗良さん、私に貴女の未来をもらえませんか?」
「未来?」
「私の本当の妻になってください」
静流はそう言うとベッドから立ち上がりデスクの引き出しからベルベットのケースを取り出し蓋を開けてみせた。
ケースの中には一対の結婚指輪が鎮座していた。
「え、これ……。いつもつけている物とは違う指輪?」
「同じ店で改めて買い直しました。この指輪は架空の妻にではなく、紗良さんにつけてもらいたい」
いつのまにか用意していたのだろう。紗良は言葉にならなかった。
「返事は?」
架空の妻時代が長かった紗良にとって、静流の本当の妻になれることは格別の喜びだった。
「結婚するに決まってるじゃないですか……!!」
「よかった……。断られたらどうしようかと思いました」
紗良は静流に飛びついた。嬉しい。どうしよう。プロポーズされてつい、はしゃいでしまう。
そんな紗良に一足早い誓いのキスが贈られる。