※エリート上司が溺愛する〈架空の〉妻は私です。
「はい。皆さん、おはようございます」
その日行われた朝会では木藤の仕入れてきた情報の通り、我孫子課長により新任の課長が紹介された。
(嘘でしょっ……!!)
紗良は絶句した。
目の前のものが信じられず、思わず目を覆いたくなった。
新しくやってきた課長の左手には先週揃いで買った結婚指輪が輝いていたからだ。
「高遠静流です。前職でも商社で営業を担当しておりました。最初は慣れないこともあると思いますが、どうぞよろしくお願いします」
静流は落ち着いた声色でそう言うと、軽く会釈した。その場に拍手が湧き上がる。
「三船さ〜ん」
「はいっ!!」
我孫子から突然名前を呼ばれた紗良はびっくりして声が裏返ってしまった。
手招きされ前に進み出ようとして、たじろぐ。
我孫子の隣には静流が立っていた。静流は口を固く引き結んではいたが、何か物言いたげに紗良を見下ろしていた。
「高遠くんが慣れるまで事務作業とか指南してもらっていいかい?」
「わかりました……」
「三船さんは地に足ついてるから高遠くんみたいなイイ男と仕事しても公私混同しないよね〜?」
「は、はは……」
喉に張付くような乾いた笑いが辺りに響く。
(もう手遅れです、課長!)