※エリート上司が溺愛する〈架空の〉妻は私です。
静流の存在はその日のうちに会社中に広まった。
目の覚めるようなとびきりのイイ男が入社してきたことで、良くも悪くもルーティンワークに飽き飽きしていた社員達の興味を引いた。
紗良も知らなかった情報がいくつも掘り起こされ、耳に入ってくる。
静流が三十二歳だということ。
業界最大手総合商社の光石商事で若くして部長を務めていたこと。
三カ国が話せる、トリリンガルであること。
輝かしい経歴ばかりで目がチカチカしそうだ。
仕事が出来そうだと思ってはいたが、本当にエリートだったとは……。
我孫子課長直々にOJTをおおせつかった紗良は周りから随分と羨ましがられた。
その日、帰宅した紗良は先に帰宅していた静流の顔を見るなり大きなため息をついた。
それは静流も同じだった。
顔を見合わせた二人は自然と床に正座した。
「困ったことになりましたね……」
「はい」
まるでお通夜のような暗い雰囲気だ。なぜこんなことになってしまったのか。
「私の職場についてほのかから何か聞きませんでした?」
「いいえ。そもそも紗良さんの勤務先を確認する必要性がありませんでしたから」
つまりはお互いの確認不足の末に、このような事態が発生したということだ。