※エリート上司が溺愛する〈架空の〉妻は私です。

「どう、しましょう……?」

 上司とひとつ屋根の下。しかし、二人は恋人でも夫婦でもなんでもない。
 静流は眼鏡のブリッジ部分を押さえ、しばし何かを考えていた。

「公私混同さえしなければそれほど問題はないと思います。世の中には夫婦で同じ職場という方々もいることですし」
「でも、同じ住所ですよ?入社の手続きしている最中に誰か気づきません?」
「少し、お待ちください」

 静流はそう言うと自室に入り、どこかに電話をかけ始めた。通話が終わるとリビングに戻り再び正座する。

「私を煌陽に呼んでくださった方に連絡しておきました。総務部の担当者に口止めしてもらえるようにお願いしました。もともと私が独身だということも隠してもらっているわけですからこれくらい造作もないでしょう」

 外堀が着々と埋められようとしている。
 結局、問題を解決するにはルームシェアを解消するか、会社を辞めるかの二択しかない。どちらも直ぐには難しいのは明らかだった。

「実は……同じ職場に紗良さんがいてくれてホッとしている部分もあるんです。私にとって転職は初めてのことなので」

(ずるいなあ……)

 そんなことを言われたら……無理とか、嫌だとかもう言えなくなってしまう。
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