※エリート上司が溺愛する〈架空の〉妻は私です。
スピカの営業時間は朝の十時から夜の九時。
その内、紗良の勤務は午後一時から夜の九時だ。合間に一時間の休憩を挟み合計八時間の労働を終える。
一日の営業を終え、閉店の時間になると弥生がクローズの札を入口に掲げた。
「いつも本当にありがとね。お給料が支払えないのが申し訳ないわ」
「いいえ。私が好きでやってることですから」
紗良は店内の掃き掃除をしながら満面の笑みで答えた。
お給料をもらってしまうと、副業扱いになってしまうので、あくまでもお手伝いという形式を取っている。
労働力を提供する代わりに、弥生から紅茶の淹れ方や提供の仕方について指南を受ける。ついでに閉店後に夕食をご馳走になっている。これを幸せと言わずしてなんと言う。
閉店作業を終えると二人はスピカから歩いて五分のところにある弥生の自宅マンションへと向かった
「お疲れ様、二人とも」
出迎えてくれたのは弥生の夫である友成だ。テーブルの上には既に豪華な食事が並んでいる。ラザニア、ガーリックトースト、ごぼうのスープ。どれも美味しそうだ。夕食はいつも友成が腕を振るってくれる。
「紗良ちゃん、もっと食べる?」
「ありがたく頂きます」
お皿を渡すと、友成は手ずからラザニアを取り分けてくれた。
友成は上場も噂される有名なスタートアップ企業で副社長を務めている。肩書もさることながら立ち居振る舞いもスマートな上に、料理上手だ。友成が作ってくれたラザニアは絶品で舌が喜んでいるようだった。