※エリート上司が溺愛する〈架空の〉妻は私です。
友成が運転する車は夜道を駆け抜け、あっという間に紗良の住むマンションの前に到着した。
「夕食まで頂いた上に、送ってもらってありがとうございました」
歩道に降り立ち後部座席からりんごの入った紙袋を抱え上げると、紗良は運転席にいる友成に頭を下げた。
「次もうんと美味しい物を作るから楽しみにしていてね」
「わあっ!!嬉しい!!」
友成の言葉に紗良が手を叩いて喜んだ時、見覚えのある人影が歩道の向こうから現れた。
「紗良さん……?」
「あれ?静流さん?」
夕食を調達しに行った帰りだろうか、静流はコンビニのビニール袋を手に下げていた。
二日酔いはすっかり良くなったようだ。
「もう行くね」
「あ、はい!!ありがとうございました」
紗良はもう一度お礼を言うと、道路を走り去って行く友成の車を見送った。
車が見えなくなると、静流が険しい表情で紗良に近寄ってきた。
「今の人は誰ですか?」
「友成さんのことですか……?」
「随分と親しげでしたが?」
静流は神経質そうに眼鏡のブリッジを押さえた。
言葉に棘があるように感じるのは気のせいだろうか。
「友成さんは私がお手伝いに行っている喫茶店のオーナーの旦那様です」
「喫茶店?」
静流は訝しむように眉間に皺を寄せた。
「はい。私、二週間に一度スピカっていう喫茶店で働いてるんです。あ、もちろんお給料はいただいていませんよ」
そういえば、スピカで働いていることをまだ静流に説明していなかったかもしれない。