※エリート上司が溺愛する〈架空の〉妻は私です。
二週間後の土曜日。
この日もスピカに行く予定だった紗良は早めの昼食をとり身支度を整えていた。出かける前にソファで寛いでいる静流に声を掛けていく。
「出かけてきます。今日も夕食は要りません」
「手伝いをしているという喫茶店に行くんですか?」
「はい」
「先日のように遅くなるなら迎えに行きます」
「大丈夫ですよ。いつもはひとりで帰っているので」
紗良は静流からの申し出を丁重に断った。わざわざ迎えにきてもらわなくても、風間夫婦のマンションから家までの道のりは人通りも多く治安も良い。
「いいから帰る前に一度連絡してください」
必ず連絡するように念を押された紗良は渋々頷いた。電車に揺られながら、静流の先ほどの態度について考える。
(変なの……)
静流とルームシェアを始めてひと月半。
これまで、彼が紗良の行動に口を出してくることなどなかったのに、いきなり保護者面して干渉してくるなんて。
(まあ、私に万が一のことがあったら、静流さんの計画も水の泡だしね……)
静流が肌身離さずつけている指輪は契約の証。紗良は彼が愛してやまない架空の妻だ。その身を案じるのは至極当然のことと言えるのかもしれない。