※エリート上司が溺愛する〈架空の〉妻は私です。

「そういえば彼氏ができたんだって?」

 店内のお客さんが減ってきた頃合いを見計らい、弥生が無邪気な笑顔で話しかけてきた。

「そのデマ、誰から聞いたんですか?」
「友成が車で送った帰りに、紗良ちゃんの彼氏っぽい人と鉢合わせしたって言ってたけど……?」

(ああ、やっぱり……)

 今朝から弥生の様子が少しおかしいと感じたのは、このせいだったのか。
 誤解を解くのは大前提として、静流のことをどう説明したものか。
 紗良は逡巡した末に、本当のことを包み隠さず説明することにした。

「あの人は彼氏ではなく同居人です」
「あれ?紗良ちゃんの同居人って、結婚して出ていったんじゃなかった?」
「新しい同居人です」
「新しい同居人って男の人なの?」
「……はい」
「彼氏でもなく……?」
「……はい」

 同居人が男と聞いて、弥生の表情が強張っていく。それもそうだ。伴侶でもなく、恋人でもない男とルームシェアをしているなんて、どう考えても外聞が悪い。
 大体の人はこういう反応をするだろうと予想済みだ。

「ルームシェアするに至るまでには色々と事情がありまして……。あの、とっても良い人なんですよ?だから弥生さんが心配されるようなことは全くありませんので……」
「そう簡単に信用できないわよ!!今度うちのお店に連れてきてくれる?変な人なら茶殻と一緒にコンポスト行きにするから」

 弥生の目は本気だった。土に還すと間接的に言われて、簡単に連れてこられるものか。……と思ったのも束の間。
 その日の夕方、静流が突然スピカにやってきたのだ。
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