※エリート上司が溺愛する〈架空の〉妻は私です。
「静流さん!?」
来店した客を座席に案内しようと入口に進み出た紗良は静流の姿を見て腰を抜かしそうになった。
「書店に行くついでに寄りました。紅茶専門の喫茶店というのに興味を引かれまして」
なんの含みもない台詞が眩しく光る。
弥生に茶殻と一緒に捨てられようとしているとは露知らず。飛んで火に入る夏の虫とはこのことだ。
本当なら大歓迎したいところだけど……今日はまずい。紗良がオロオロしている間に騒ぎを聞きつけた弥生がこちらにやってくる。
「いらっしゃいませ。もしかして貴方が紗良ちゃんの新しい同居人の方?」
「初めまして、高遠静流です」
紗良と同居する男が一体どれほどのものか値踏みしようとした弥生は、静流を上から下までじっくり眺めた。
「あ、どうも……。店主の風間弥生です」
弥生はすっかり毒気を抜かれて、しずしずとカウンターの中に戻っていった。かと思えば、静流をテーブルに案内し終えた紗良にテンション高めで話しかけてくる。
「ねえ、紗良ちゃん!!もの凄く素敵な人じゃない?」
「……オーダー取って来ますね」
紗良は水の入ったグラスとお手拭きを持ち、静流のオーダーを取りに行った。
「ご注文はお決まりですか?」
「紗良さんのおすすめは?」
「セイロンですかね。今年は雨が少なくて全体的に良い茶葉に仕上がっているんです」
「じゃあ、それで」
注文伝票を持ちカウンターに戻ってきた紗良に弥生が今しがた思い付いたように提案する。