※エリート上司が溺愛する〈架空の〉妻は私です。

 椅子に座りふうっと一息ついたところで今度は月城に話しかけられる。

「三船ちゃん、課長どこに行ったか知らない?」
「高遠課長なら倉庫にいらっしゃいますよ。今、案内してきたところです」
「倉庫か。せっかく昼飯誘おうと思ってたのに。戻ってくるまで待つとするか」

 すっかり二課に溶け込んだ静流は月城とよく昼食に行くようになった。
 傍目から見れば上司と部下という間柄ではあるものの、その実、面倒見のいい先輩と後輩のような微笑ましい関係性が構築された。

 月城は静流より年上で、元々我孫子課長担当の雑務を一手に引き受けていたので、仕事の面でも静流を支える屋台骨として活躍している。

「随分と仲良くなったんですね、おふたりとも」
「いやー実際、あの課長面白いもん」
「……面白い?」

 静流のどこに面白さを感じるのか甚だ疑問だった。仕事は恐ろしく出来るが、目で見てわかる面白さからは無縁に思えた。

「普通さあ、あの顔に生まれたら女なんて取っ替え引っ替え出来そうじゃん?俺ならそうするね。それがよ?奥さんにぞっこんってところが変わってて面白い。俺も見習いところだね」

 月城は独身だ。浮いた話はこれまでいくつもあったが、紆余曲折あり結局は独身を貫いている。
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